八、密教工芸の諸相


図8-1 利生塔仏舎利容器 浄土寺蔵
(撮影 村上宏治)
 密教法具以外にも、密教に係わる工芸品は多岐にわたる。法会儀式用具、僧具、荘厳具などである。
 宗教的な雰囲気を高めるために音を発する様々な鳴器が使用されるが、これを総称して梵音(ぼんおん)具という。僧具に分類される道具である。錫杖(しゃくじょう)は、僧侶が遊行(ゆぎょう)の際に携帯し、揺すって音を立てて蛇や毒虫などの害から逃れるために使用したり、托鉢(たくはつ)の来意の告知、読経(どきょう)の調子取りや合図などに使用される。錫杖は、柄の長さを切り詰めた手錫杖で、鐶を背向する双龍が身をからみ合わせた心葉形となし、その頂部に定印を結ぶ阿弥陀三尊像を配したものである。
 仏像・堂内などを飾り立てる荘厳具のなかで、釈迦の遺骨である仏舎利(ぶっしゃり)を祀るものがある。仏舎利の信仰は、仏像が礼拝対象として生み出される以前において、仏舎利を安置する仏塔(ぶっとう)を礼拝対象とする時期に重要なものであった。平安時代に入唐し密教をもたらした入唐八家の僧侶を主として、中国から多くの仏舎利が請来され《注22》、密教化した仏舎利信仰が生み出された。これを受けて鎌倉時代になると、仏舎利は容器におさめられて塔の心礎などに秘蔵されるものでなく、信仰の対象として身近に礼拝できるよう舎利容器の荘厳が追求されるようになった。
 利生塔仏舎利容器(図8-1 浄土寺蔵)は、蓮華座上に紅白二粒の仏舎利を納める水晶製の宝珠を置き、これを独鈷杵・輪宝・火焔(かえん)形の飾り金具で荘厳する珍しい形式になるものである。浄土寺には、1340(暦応3)年に足利直義が「仏舎利二粒(一粒東寺)」を奉納した旨の書状も伝わっている《注23》



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