七、密教の修法と密教法具

 古代インドにおける生活用具や武器などに祖型をもつ特異な道具である密教法具(みっきょうほうぐ)は、高度に整備された密教の修法(しゅほう)に欠くことができないものである。密教法具は、修法の際に並べられて堂内を荘厳(しょうごん)(美しく厳(おごそか)に装飾すること)し、その神秘的な形が修法を行う修行者に特殊な力を授け、修法の成就(じょうじゅ)を助ける。
 さて、密教法具はその用途から次の4種類に分けられる。(1)煩悩(ぼんのう)の賊を討ち破ることを象徴する金剛杵(こんごうしょ)・輪宝(りんぼう)・羯磨(かつま)、(2)音を発するものとして、眠れる仏性(ぶっしょう)を覚醒(かくせい)させることを象徴する金剛鈴(こんごうれい)、(3)俗塵(ぞくじん)(世間のわずらわしさ)を焼却し、清浄(しょうじょう)(迷い・罪悪などのないこと)な身心をあらわさせることを象徴する護摩(ごま)壇・護摩具、(4)修法を行う場を浄めて荘厳し、降臨してきた諸尊を供養するための火舎(かしゃ)・六器(ろっき)・華瓶(けびょう)・飲食器(おんじきき)などの供養具、以上である。
金銅五鈷鈴
図7-1 金銅五鈷鈴(附−金銅五鈷杵、金銅金剛盤)
西國寺蔵
 金剛杵は、杵形の把(つか)の両端に鈷(こ)(切っ先)をつけたもので、古代インドの武器にその源流をもつ。鈷の形式よって独鈷杵(とっこしょ)・三鈷杵・五鈷杵などと称される。さらに把中央部の表出により鬼目(きもく)とよぶ球状突起を表すものと、鬼面(きめん)をめぐらしたものに分類される。金銅五鈷杵(図7-1 西國寺蔵)は鬼目杵で、脇鈷には嘴形(くちばしがた)《注20》といわれる突起を付している。
 金剛鈴は、鈴身(れいしん)に金剛杵を象(かたど)った柄をつけたもので、鈷の形式によって、独鈷鈴・三鈷鈴・五鈷鈴などに区別される。鈴身は、通例紐帯(ちゅうたい)をめぐらす素文(そもん)が主流だが、尊像形を表した仏像鈴、尊像の働きを象徴する宝珠・金剛杵などの器物を表した三昧耶(さんまや)鈴、諸尊を象徴する種子(しゅじ)を表した種子鈴にさらに区分される。
 金剛五鈷鈴(図7-1 西國寺蔵)は、鈴身に独鈷杵・輪宝・三鈷杵を表した三昧耶鈴で、把部中央に鬼目、脇鈷基部には獅噛(しかみ)《注21》がみられる。
 仏像鈴の遺例のほとんどは、純密受容期の中国・唐からの請来品で、銅製五鈷鈴(図7-2 西國寺蔵)は、四天王と梵天・帝釈天を表したもので、脇鈷に鋭い逆刺しを備えている。空海の請来品とも伝えられている。
 この金剛杵や金剛鈴を置く三脚付の三角形に近い不整四葉形の盤を金剛盤といい、(1)縁に鍔縁(つばぶち)をめぐらし盤面を深くくぼませ、盤面に輪宝文・金剛杵文などを線刻するもの、(2)盤の周縁に山形の稜線ををめぐらし、盤面には一切の装飾を施さない素文系のもの、(3)盤の周縁と盤面は(2)の形式であるが、盤面上に金剛鈴を安置するための蓮台(れんだい)形鈴座(すずざ)を備えるもの、以上の三種に分けられる。金銅金剛盤(図7-1 西國寺蔵)は(2)に属する。
銅製五鈷鈴
図7-2 銅製五鈷鈴   西國寺蔵



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