二、大日如来
宇宙を統(す)べる絶対仏

 雑密においては、仏教伝来以来最も信仰されていた聖観音菩薩の密教化に始まり、その変化(へんげ)観音《注4》として十一面観音・千手観音などが続いて信仰された。これに対し、純密−−真言密教は大日如来を唯一最高の本尊とした。
 大日如来は、仏のなかの仏、全ての仏の王者として、如来でありながら頭頂に宝髻(ほうけい)《注5》を結い、頭に宝冠(ほうかん)を被り、胸に瓔珞(よくらく ネックレス)、手首に腕釧(わんせん)、上腕に臂釧(びせん)という腕輪(ブレスレット)などの装飾品にて身を飾り付ける菩薩形の姿となる。実にきらびやかなものだ。このように大日如来が他の如来と一線を画するのは、密教において最高最尊という絶対的存在として、密教世界の中心にあるとされるからである。
 さて、大日如来は二つのあらわれ方をする。如来に内在する理徳の面を示す胎蔵界(たいぞうかい)大日如来と、外に表現される智徳の面を示す金剛界(こんごうかい)大日如来である。この違いは印相(いんぞう)にあらわれる。胎蔵界大日如来は法界定印(ほっかいじょういん 左手を下にしてその掌に右手の甲を重ね、両手の親指の先をつなぐ)を結び悟りの最高の境地を、一方、金剛界大日如来は智拳(ちけん)印(両手の親指を掌中に入れて握り、左手の人差し指を立てて右掌で握る)を結んで考えを決定する時のこれから行動に移ろうとする直前の動作を、それぞれ表現している。
 木造大日如来坐像−胎蔵界・金剛界−(図2-1,2 浄土寺蔵)は、県内では珍しく両界の大日如来が揃って遺存する例として貴重である。

木造大日如来坐像−胎蔵界    木造大日如来坐像−金剛界
図2-1 木造大日如来坐像−胎蔵界−
浄土寺蔵
(撮影 村上宏治)
  図2-2 木造大日如来坐像−金剛界−
浄土寺蔵
(撮影 村上宏治)

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