3. 両界曼荼羅(りょうかいまんだら)

(2)胎蔵(界)曼荼羅 b.各院の特徴と教え

 中台八葉院では、赤い八葉蓮華の中心に大日如来を描き、その四方に宝幢(ほうとう)如来(東)開敷華王(かいふけおう)如来(南)、阿弥陀如来(西)、天鼓雷音(てんくらいおん)如来(北)の四仏と、その四隅に普賢菩薩(東南)、文殊菩薩(西南)、観音菩薩(西北)、弥勒菩薩(東北)の四菩薩を八葉蓮弁上に配している。
胎蔵界四仏 胎蔵界曼荼羅〈中台八葉院〉
胎蔵界四仏の働き         胎蔵界曼荼羅〈中台八葉院〉 浄土寺本

 大日如来は法界定印(ほうかいじょういん)を結び、五仏の宝冠を戴くきらびやかな菩薩形である。法界定印は衆生を表わす左掌(五本の指は五大を表わす)の上に、仏を表わす右掌(同じく五指は五大を表わす)を重ねる事によって、仏と衆生が一体である事を象徴する印相である。正に大悲大定の威光に包まれた姿と言える。
 これに対して四仏は、赤い袈裟を着けた如来形となっている。宝幢如来の与願(よがん)印は、衆生の願いをかなえようとする誓願を表し、開敷華王如来の施無畏(せむい)印は、何ものも畏れる事のないよう衆生を守護する仏の威力を示している。阿弥陀如来の定印は、心に安らぎを与える禅定の印である。また天鼓雷音如来の触地(そくち)印は降魔(ごうま)印とも呼ばれ、釈尊があらゆる魔障に打ち克って悟りを開かれた時の成道の姿である。
 これら四仏の印相は、釈尊の成道をはじめとする代表的事績を象徴するもので、金剛界四仏も同様の印相である。
 また四仏は、私達が心の内に本来具わる仏性に目覚め、菩提心を発して(宝幢如来)修行をし(開敷華王如来)、やがて菩提(悟り)に至り(阿弥陀如来)、涅槃の境地に向かう(天鼓雷音如来)心の発展過程(発心→修行→菩提→涅槃)を示している。
 四隅の四菩薩は、各四仏の働きを側面的に支援している。(普賢菩薩は宝幢如来を文殊菩薩は観音菩薩を……)
五仏(金剛界、胎蔵界)の印相

智拳印

法界定印
(1)智拳印(金剛界―大日如来) (2)法界定印(胎蔵界―大日如来)

触地印

与願印
(3)触地印〈降魔印〉
(金剛界―阿如来、  
  胎蔵界―天鼓雷音如来)
(4)与願印〈施願印〉
(金剛界―宝生如来、  
  胎蔵界―宝幢如来)

弥陀定印

施無畏印
(5)弥陀定印
(金剛界、胎蔵界―阿弥陀如来)
(6)施無畏印〈施願印〉
(金剛界―不空成就如来、  
  胎蔵界―開敷華王如来)

 八葉の赤蓮華は仏の浄らかな菩提心を表わすと共に、私達の心の内に本来具わる仏性が仏種から芽生え、やがて満開に華開き、悟りに至った心の境地を示している。
 またこの八葉蓮華の大きさは無限大であり、胎蔵曼荼羅全体を包み込んでいるとも考えられる。事実その事を示すかのように、胎蔵曼荼羅の大部分の尊が蓮華座に坐し、全体が蓮のイメージで満たされている。(金剛界曼荼羅が白い月輪に満たされているのと対照的である)それはあたかも、胎蔵曼荼羅全体が大日如来の胎内を意味し、生きとし生けるもの森羅万象が全て、大日如来の子宮に宿る胎児のごとく共存共生している事を如実に物語っている。
 中台八葉院の上方(東)は遍知院と呼ばれるように、中央には一切如来智印(三角智印)という火炎に包まれた三角形の象徴的造形がある。これは一切如来の燃えさかる智火を表わし、釈尊が成道された時の大勇猛心に由来している。胎蔵曼荼羅が大悲の徳を表としている反面、それを裏付けるべき大智の力をここにシンボリックに表現している。

胎蔵界曼荼羅〈遍知院〉
胎蔵界曼荼羅〈遍知院〉 浄土寺本

 下方(西)の持明院は、これを受ける形で大智の力を具体的に忿怒の形相をした明王として表現している。その中央には正に智恵の仏である般若菩薩が鎮座している。

胎蔵界曼荼羅〈持明院〉
胎蔵界曼荼羅〈持明院〉 浄土寺本

胎蔵界曼荼羅〈遍知院、釈迦院、文珠院、最外院〉
胎蔵界曼荼羅〈遍知院、釈迦院、文珠院、最外院〉 浄土寺本
胎蔵界曼荼羅
〈観音院、地蔵院、最外院〉
浄土寺本
胎蔵界曼荼羅

 中台八葉院の左方(北)には観音院と地蔵院があり、これらは大悲の菩薩たちと言える。これに対し右方(南)には金剛手院と除蓋障院があり、こちらは大悲を裏付ける大智の菩薩たちと言える。
 遍智院の上方(東)には釈迦院と文殊院があり、仏法(真理)の体現者とその相承、護持者の代表尊が勢揃いしている。
 一方持明院の下方(西)の虚空蔵院と蘇悉地院(本来は一つの院を構成)は、言わば大悲の徳と大智の徳がバランスよくこの院で融合し(大悲の徳─千手千眼観音菩薩、大智の徳─金剛蔵王菩薩)、最終的に宇宙法界を宝蔵(宝に満たされている蔵)と観なす虚空蔵菩薩にその両徳が結集されている事を表している。
 最外院には地獄、餓鬼、畜生、修羅人の五趣世界から、欲界、色界、無色界に至る三界の諸天、さらには日、月、曜宿などの天文神までが描かれている。


胎蔵界曼荼羅
胎蔵界曼荼羅
〈金剛手院、除蓋障院、最外院〉
浄土寺本

胎蔵界曼荼羅〈持明院、虚空蔵院、蘇悉地院、最外院〉
胎蔵界曼荼羅〈持明院、虚空蔵院、蘇悉地院、最外院〉 浄土寺本

 ここに仏教の説く時空を越えた無限悠久の十界の世界が、胎蔵曼荼羅として余す所なく描き尽される事となる。
 そしてそれらの諸尊が全て宇宙仏大日如来の化身であり、大日如来と平等の仏性をもついのちの輝きに満ちている。
 胎蔵曼荼羅が本有(ほんぬ)平等(本来的に一切の存在が仏と平等の仏性をもつ)を基本とする理の曼荼羅と呼ばれる所以がここによく示されている。



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