森谷南人子>エピソード | |||||
桃源郷 | |||||
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昭和15年 4月紀元2600年奉祝日本画大展覧会に「春野」が入選。談話:「2年前、(初春閑村)とともに文展出品のため制作した2点のうちの一つで、文展に出品したものも入選しました。 今回出品のものは当時残したいものに多少筆を加えたもので、図としては平凡なものですが、長閑な美しい絵として私も改心の作です。」昭和15年4月23日大阪毎日新聞掲載談話。
男女二人の姿がゴッホの[NOON:REST FROM WORK]と非常によく似ている。 人物の足には健康的に日焼けしたような血色のいいピンクを肌色の上にのせている。生きていることの歓びを表しているように思える。 時代にはかなり逆行しているのに展覧会に受かるということは皆優しさを心の奥で求めていたのではなかろうか。 同年11月紀元2600年奉祝美術展に「桃花処々(03−549)」が入選。横197センチ、縦160センチの大作である。 談話:作品は尾道市の名所・山波の桃畑を画題とし、桃山と柑橘・麥(むぎ)畑などだんだん畑を取材し、これに働く二人の農婦を配したもので、従来の繊細な画風を変えて、作品全体を大胆に単純化した初めてのものです。 (昭和15年11月5日大阪毎日新聞掲載談話) この作品は下絵(03−092)と本図(03−549)が尾道市立美術館に揃っている。 下絵は桃の枝の描写が細かく緻密である。植物図鑑にもあるぐらいの細かさで、背景にある畑のうねりや丘の描写も非常に細かい。 本作品の桃の花は「春野」よりも色調が濃いピンクである。手前で弁当休息をとっている農婦の着物の青も非常にあざやかである。着物から出る農婦の太い足にも、大地に根ざす力強さを感じる。着色の特徴として水分を多く含んだ絵具を大胆にキャンパスに置いている。そのため、下地には絵具が乾いたあとの水滴がはっきりと認められる。
南人子の敬愛する先輩、村上華岳の力強い筆跡について小林和作が語っている一節がある。 「華岳はまだこの頃は健康だったので、注意力が画面に隈なく行き届いている。そうして、こんな色彩と陰影の深い絵を、画面を立てたままでさっさとかいている。それはどこの色も皆下の方へ流れて溜まっているからよくわかる。しかもそれでかくのごとく整然とかき得るのは、よほどの達筆であったと驚伏せざるを得ない。」(和作の随筆55P・「村上華岳のこと」より抜粋) |
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