薄茶… 茶道速水流(滌源会尾道支部) | ||
源氏五十歳 堅い人という評判の夕霧であったが、一条の落葉の宮にひたすら思いを寄せていた。落葉の宮の母の御息所が病気を患い、加持(かじ)のため宮とともに小野の山荘に移った。 八月の中頃すぎ、夕霧はその山荘へ御息所の見舞いに訪れた。折からの霧にかこつけて帰りを延ばし、落葉の宮と対面する。 御息所が物の怪に苦しみ女房たちが病室に詰める隙に、御簾の中に入り込み、逃れようとする宮を捉えて、三年来の思いを熱心に告白するが、宮は固く心を閉ざし夕霧の思いは叶わない。そのまま一夜が明ける。加持の律師から夕霧が落葉の宮のところへ泊まったことを聞いた御息所は、真情を確かめるため病をおして夕霧に手紙を書き送る。 ところがこの手紙を雲居の雁が奪い隠してしまったために、夕霧は返事が書けない。なかなか返事が来ないので、落胆した御息所は病状が急変し、息絶えてしまう。 夕霧は弔問に駆けつけたが、母の死は夕霧のせいと恨みに思う落葉の宮は、夕霧を近づかせない。 九月半ば、野山も秋の色深く、山風に梢の木の葉も散り、山田の稲は黄金色に輝く。山荘の小柴垣の近くまで寄ってきた鹿が立ち止まり、鳴子の声にあわせるように鳴く。読経や念仏の声がしめやかに聞こえてくる。夕霧が訪れてきて、西の妻戸の側に佇(たたず)み、扇をかざして夕日の眩しさを避けている美しい姿を、女房が眺めていた。 侍女の少将を呼び出して意を伝えるが、落葉の宮からは素っ気無い挨拶が返ってくるだけだった。 夕霧は一条の御殿を手入れして、無理に落葉の宮を移したが、宮は塗籠(ぬりごめ)に入って中から錠を差し、夕霧を近づけようとしない。夕霧は宮の心が解けるのを気長に待つつもりだったが、人々は二人の仲は公然のものと噂していた。 雲居の雁は怒って幼い子たちを連れて致仕の大臣邸に帰ってしまい、迎えに来た夕霧に会おうともしない。 |