十数分前、向島から尾道へと向かっていたサッチャン、上空をキラリと光飛行機のようなものを見た。反射的にB−29と思ったのは、当時としてみればご事性でしょうか。何気ない一日の始まりだった。何時もと変わることなく友達とハシャギ、タワムレ船に乗ろうとしていた、只それだけのことだった。その時に見た、一瞬目に入っただけのことでした。 その日の女学校の帰り、芋掘りの手伝いがいやで言い訳を考えながらサッチャンが家に着いたのは、午後4時半。近所の大人達が何か深刻な顔をして話し込んでいる。 大事な芋掘りの手を止めてまで・・・・・ |
「広島に新型の爆弾が落ちて、何もかにも焼けた。おじちゃんが死んだらしい。」 「探しに行かなきゃならん。出兵した息子が分からんことになった。・・・・・・・・」 次の日の朝、尾道駅に荷物を取りに行った。上りの汽車が到着したところだった。 サッチャンのヒロシマが始まった。備後一の美少女と言われていたサヨチャン、服は焼け落ち、顔は半分溶け落ちたような火傷、目はうつろに尾道水道の方を観ているだけ。 抱え込まれるように母親に包まれて行ってしまった。その母もサヨチャンがいなければきっと立つ事も出来ぬくらいの火傷であった。 何がヒロシマで起きたのか、未だ誰もその時点で正確な事を知っているものはいなかった。 |
|