洗心
中 国 新 聞
平成13年3月13日(火)

タイトル
素朴な食感
         シェフの原点
駄菓子屋のもんじゃ焼き 写真

ソースと千切りキャベツが混ざり合う食感、
「もんじゃ焼き」

駄菓子屋のもんじゃ焼き

お墓で卒塔婆を抜いてやり投げした。駄菓子屋でインチキやった。それで知らない大人に怒られた。「私はね、とっても悪い子どもだったんですよ・・・」と笑うシェフ。
因島市内でレストランの総料理長を務める中田幸男さん(四〇)は、東京・赤羽生まれ。神奈川県・箱根のホテルで修行し、七年前、東京から尾道市に移り住んだ。
子ども時代、駄菓子屋で悪友たちと「もんじゃ焼き」を食べた。十円だった当時は今のとかなり違う。メリケン粉を水で溶き、ウスターソースを加え、キャベツの千切りを熱くした鉄板の上で軽くいためる。ドーナツ状に円を描き、その中に溶き汁を入れて混ぜる。

揚げ玉と刻みショウガを入れ、カリカリになったら、親指ほどのヘラでなすりつけるように食べる。それが文字を書くのに似ていたためか、「文字焼き」が「もんじゃ焼き」。今は新たな具材でおしゃれになった。当時は駄菓子屋の軒先でおばちゃんが焼き、子どもらがハチの巣でもつついたように騒いで食べた。
高校を卒業後、アルバイト先のレストランで「筋が良い」と言われ、フランス料理の世界へ。あの駄菓子屋の軒先とまではいかないが、ソースとキャベツが混ざる「もんじゃ焼き」のシンプルな食感は今でも基本だ。

一九九二年にソムリエ資格を取得。料理とワインへの情熱は彼を「初めに素材ありき」に走らせる。「ヒラメの刺し身」なら、しゅんの甘みを生かし、隠し味を使わない。
「たかが料理だけどなぁ、僕の表現したいワインと料理のテーマは・・・風と香りを感じさせることかな」。瀬戸内の空気と人情は中田さんの五感を刺激。そこから「もんじゃ焼き」の原点に返ってゆく。一層シンプルな味付けになる彼の料理に懐かしさを覚え、因島をあとにするお客が多いという。

写真 ・ 文 村上宏治

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