洗心
中 国 新 聞
平成13年2月6日(火)

タイトル
修行僧の糧
        忘れられぬ味
タチッポ漬け 写真

土居住職の修行時代の思い出
「タチッポ漬け」
タチッポ漬け

「物を大切にとか、日本の文化に誇りを持てとか言いたくない。それより私たち伝える側の非力を顧みなくては・・・」。広島県本郷町南方の真言宗御室派楽音寺で土居海俊住職(五〇)は言う。

十年前、住職として入山。荒れ果てた境内でご本尊の薬師如来に一心に祈る。「ここまで復興したのは、ご本尊と皆さんのおかげ。ワシはお経を唱えただけですわ」。
土居住職は二十二歳で愛媛県・石鎚山の極楽寺に入弟子。修行時代の定番のおかずが「タチッポ漬け」だった。植物名はイタドリ(虎杖)。四十aぐらいまでの若い茎は食用で根は薬用のタデ科の多年草。どこにでも自生し、中は空洞で折ると「ポン」と音がする。
生は酸味がきついが、熱湯につけて皮をむき、塩漬けにする。これだけで一年はもつ重宝な保存食だ。食べる時には塩抜きし、好みで昆布だしに浸したり、ニンニクをいれたりする。黄緑がかった色は食欲をそそるものではないが、ひと口食べると忘れられない。

なぜ、イタドリが「タチッポ」なのか定かでないが、昭和三十年代に野山で遊ぶ子どもたちの水分補給に最適なおやつだった。成長して百数十aになり、硬くなると、刀に見立てて遊んだ記憶が私にもある。その時、刀の太刀=タチと折る時の音=ポンを引っかけて「タチッポ」と聞いた。
一月末、楽音寺では火渡り行が行われた。ことしは極楽寺の神野顕彰副管長もタチッポ漬けを手土産に顔を見せた。土居住職は修行時代にはいためて食べたこともあるという。「これを食べるとあの時代が懐かしい。お師匠や先輩方が唱えるお経を野良仕事のくわを振りながら覚えた。『教えていただく』とはそんなものだろう」。

写真 ・ 文 村上宏治

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