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−秋風の”大島紬”に込めた父の愛− |

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●お年寄りの記憶を呼び起す着物姿
特別養護老人ホームで働いている百合子さんは、
お正月、自分の振袖姿を担当しているお年よりに見て もらいたいと、 そのままホームへ行ったのです。
お年より達は彼女が思った以上に喜んでくれました。
それからと言うもの、彼女は毎年お正月の三が日の内、仕事が休みの日には着物を着てホームに行くようになりました。
百合子さんの着物姿に、いつも遠くを見つめているようなお年寄りの目が生き生きと輝いてきます。
普段しゃべれない方が着物姿に見とれる内にしゃべれるようになったり、一緒に撮った写真を見るとお年寄り達の記憶も呼び起こされて来るようでした。
●父がくれた"大島紬"
幸子さんの実家は四国の山深い小さな町で(愛媛県西予市野村町舟戸)そこには年老いたご両親が住んでいました。
久しぶりに里帰りした幸子さんにお父さんが「ほれ、着付けを習ろうとるんならこれをやるから着物にしろ。大島紬じゃ」と一本の反物をくれました。
少しづつながら着物の知識を身に着けていた幸子さんは、それが本物の大島紬ではないと薄々気付いてしまいましたが、お父さんに言われるがままに着物に仕立ててもらうことにしたのです。
秋祭りの日、仕立て上った着物を手に幸子さんは百合子さんと一緒にご両親が待つ四国の実家に行きました。
まず、幸子さんは百合子さんがお給料を少しづつ貯めてあつらえた着物を着せてから、お父さんからもらった着物を自分が着ました。
「出来たよ、父ちゃん」幸子さんの呼び声に、お父さんは気恥ずかしいのか、何度か呼ばれてやっと出て来たのです。娘と孫娘、二人の姿を見て「ええのう・・・上品じゃのう・・・」と目を細めるお父さん。一度は奥へ行ったのですが、再び出て来て「ええのう・・・上品じゃのう・・・」と何度もつぶやかれたのでした。
●秋祭りにつむがれた親子の絆
お祭りだから着物姿の人が大勢いるかと周りを見渡せば、着物を着ているのは幸子さん親子の二人だけ。
二人と一緒にいたお母さんに、近くの人が「その隣の人どこの人・・・?」と聞いてきます。
「あれ、ウチの娘と孫よね」とお母さん。 「やっぱりいいわ!着物はいいわ!綺麗に着とってじゃねぇ。」
着物姿を記念に写真を撮ろうとすると、大勢の人がお祭りの主の大きな牛鬼をわざわざ自分達の方に動かしてくれます。
写真に映っているお父さんとお母さんの顔が嬉しそうで誇らしそうで・・・・
"大島紬"・・・それは本物ではなかったけれど、幸子さんとお父さんにはどんな高価な大島紬にも負けないものでした。
秋祭りのこの日、大切な思い出が4人の胸に刻まれたのでした・・・ 時はめぐり、幸子さんのお父さんも亡くなられて、今年の秋で三回忌を迎えるそうです。
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